特集・〈いのち〉の声をきく

未来へ続く道

「ホピの予言」に私を導いたもの   宮田雪

(五)
  ロンゲスト・ウォークがワシントンに着いた日、ホピの最長老デービット翁と共に来ていたトーマスとわたしたちは数ヶ月振りに会った。デニス・バンクスからカーター大統領宛に提出された正式文書の中に日達上人のアメリカ政府に対する諌言書とホピの予言があったことを開いていたわたしは、そのことを彼に聞いた。

 「そう、このロンゲスト・ウォークもわたしたちの予言の中で既に語られていたことだ。東から西に追われ西から東へ大きく動いていく時代がくるという言い伝えだ。そのことによってこの大陸にもう一度スピリットが戻ってくるそうだ。だから、これは予言の成就する過程なんだ」

 トーマスやデービット翁たちはロンゲスト・ウォークの成功のために毎日、あの砂漠の中で祈りを捧げていたらしいのだ。

 わたしは自分の歩いたワシントンまでの道のりがホピの予言の道の上にあったことを改めてその時知ったのだった。

 数ヶ月後、わたしはホピのションゴパビ村の聖なる谷間にある岩山の前に立っていた。グレイトスピリットであり、ホピの言葉でマーサウと呼ばれる偉大なる精霊は自分の司る大地をわたしたち人間に差し出し、自分の教えに従ってそれを使うように示していた。そして、その教えに従い大地を使えば全ては永遠に続いていくということを教えていた。 かつて、数多くのホピの長老たちが一族に起こる出来事と世界に起こる出来事を子細に検討するために何度この岩の前に立ったことだろう。偉大なる精霊、グレイトスピリットの計画、ロード・プラン。わたしは仏さまの声に導かれてその前に立っていた。そこから見える幾つかのメサはホピの人たちがツクナビと呼んでいる、母なる地球の中心点である。人々の主食であるトウモロコシの収穫や、あらゆる埋葬や雨乞いの儀式などすべては、この土地の人間の理解を越えた偉大な力に負っているし、季節の変化に応じて、キバと呼ばれる儀礼所で行なわれる儀式の後、伝統的なホピの人々は神々への祈りの羽根とトウモロコシの種をこの地に植えて歩く。それはまた、彼らのトウモロコシが豊かに実る願いが込められるばかりではなく、この地球上のトウモロコシの全てが豊かに実り、全世界の人々の大地と平和を祈るために行なわれるのだ。

 だから、もしこのツクナビが失われるようなことになったら、ホピの祈りや儀式は力を失い、大きな災害がホピばかりではなくこの地球の上に生きているわたしたち全てに起こると言われていた。グレイトスピリットは人間が他のいのちあるものと共生していくことを学ぶまで、決してこのツクナビの地下にある資源に手をつけてはいけない、とホピの祖先たちに告げていたという。

 そのツクナビと彼らの土地で今、なにが起こっているのかよく見るようにとトーマスはわたしに言い、その日からフォー・コーナーズと呼ばれるその広大な地域をわたしは旅し始めることになった。しかし、ツクナビに連なるメサのひとつに足を踏み入れてわたしは動けなくなってしまった。そこは巨大な石炭の露天掘り鉱山になっていたのだ。ダイナマイトが大地に炸裂し、数十台のトラックが土煙りを上げながら走り、鉱山専用の鉄道とパイプラインが数百キロに渡って伸びていた。採掘された石炭は近くの火力発電所で燃やされ、ロスアンゼルスやラスベガスなど大都市の電力はそこから送られているのだった。

 ツクナビのなかにあるビック・マウンテンではそこに住むディネ(ナバホ)たちを強制移住させようとする政府の計画が進んでいた。その地下にも大量のエネルギー資源が眠っているのだ。トーマスやビック・マウンテンの伝統的なディネの人々は、その移住計画に反対していた。彼らは、すぐ近くの土地がウラニウムや石炭の採掘のために破壊され、その結果、深刻な放射能被曝を受けた人々が続出していることを知っていたし、それよりもまず、グレイトスピリットの教えを固く守っているからだった。この土地をグレイトスピリットから管理する使命を与えられ、彼が再び戻ってくるまで彼のために守らなければならないからだ。そのために特にホピはこの大地の番人、地球を守る人としてこの土地に植えつけられたのだ。

 だが、そうした伝統的な生き方を貫く人々の反対を押し切り、合衆国政府に管理された部族政府の手によってこの聖なる土地は次々と借地化され膨大な地下資源が掘り出されていっているのだった。地下水の枯渇は深刻な問題であり、彼らの作るトウモロコシにも影響が出ていた。

 それにも増してウラン採掘による被害は最もわたしを驚かせた。採掘によって大量の放射性ラドンガスが大気中に放出され、しかも職のないディネたちは鉱夫として雇われ安全性の低い最も危険な労働を強要され次々と被曝を受けているのだった。精錬の過程で産み出される膨大な量の放射性廃棄物は、精錬所の周囲に数百キロに渡って放置されていた。それが風に乗り、砂ぼこりと共に舞い上がり、放牧中の羊や牛を、彼らの飲料水である川の水を汚染し、妊婦や産まれてくる赤ん坊に奇形児が増え始めているのだった。このウラニウム採掘が日本とも無関係ではないことも分かっていった。

 チャーチロックというところにある精錬所で放射性廃棄物を貯めていたダムが決壊するという事故が起こり、数百トンの廃棄物と廃液が一瞬にして流れ出し、近くの川に流失した。この川の水は流域に住むディネたちにとって貴重な飲料水であり家畜用の水源だった。人々は企業を相手取ってすぐに裁判を起こしていたが、一年以上も放っておかれ、そのあげくがわずかな保証金しか与えられていなかった。そして、この精錬所だけでも年間総生産量の二パーセントが日本の原子力発電の燃料として輸出されていた。

 全人類にとって母なる地球の聖地であるこのホピやディネの土地を破壊し彼らを被曝させながら、それを平和利用という名で消費し続けている日本とアメリカの姿、いや人間の持つ貪欲というものの姿をわたしはそこに見たような気がした。わたしはトーマスがこの土地で起こっていることを見なければいけないと言った意味がやっと分かってきた。それはまさしく、近代文明を押し進める人間の心のあり方を鏡のように写し出している土地だった。わたしたちは何も悪いことはしていない、決して誰も他人を傷つけたりはしていない、と誰もがそう思っている。しかし、わたしたちが多くの金や物、それによって得られる豊かさを維持し続けようとすればするほど、それはまさしくこのインディアンたちを絶滅させることに加担するということになっていってしまうこの現代社会というものの構造に、わたしたちは互いに気づかなければならない。それらは直接に多国籍企業やその他の経済機構とつながり、彼らが利益を得るためにわたしたちの心や身体や、いのちはコントロールされているのだ。それに気づかないほど、わたしたちの心は汚染されてしまっているのだろうか。フォー・コーナーズの破壊されていく姿を追いながら、わたしは何度も絶望的な気持ちになっていった。

 だが、トーマスたちホピの伝統社会の人たちは、こうした大地の破壊やウランや石炭、石油の採掘に始まり、核兵器、原発といった核開発に代表されるテクノロジーも、あのションゴパビの聖なる谷間に記されたグレイトスピリットの計画、ロード・プランが実現していく過程のひとつとして見ているのだった。そして、やがて、わたしたちは「浄化の日」を迎えるのだという。

 あらゆる弾圧と迫害に耐えホピの予言を今日に伝えてくれた太陽一族の長老、ダン・カチョンバは、その生涯において様々なホピの予言が実現していくのをその目で見てきたという。そして、それだけではなく、彼は父、ユキウマから「お前はこの時代の最後の一大イベントである『偉大なる浄化の日』の始まりを見るまでは生きるだろう」と言われ、そのダンが死んだのは、 一九七二年だった。

 ホピの予言によればわたしたちは、今「浄化の日」を迎えるただ中に立たされていることになる。それを決めたのはグレイトスピリットであり、誰もそれを止めたり、それに何か言葉をはさんだりすることは出来ない。それは必ず実現すると、ホピは断言するのだ。だから啓示されているのだと。トーマスによれば、ホピにとっての「浄化の日」とは次のように予言されているという。

 「太陽をシンボルに持った国の人と釣十字をシンボルに持つ人々と、それから赤い帽子か赤い衣を着た人々がそれぞれの方角から、わたしたちの聖地、オールド・オライビにやってくる。彼らは人数は多く、自分たちの宗教以外に決して属していない。また、彼らは聖なる石板を携えてやってくる。彼らの来訪は大変な力で何者も彼らを止めることは出来ない。この世のすべての力は彼らの手中にあり、彼らはたちまちこの大陸全体を支配するだろう。しかし、ホピは絶対に武器を取ってはならないと警告されている。それらのパワーがすべてこの土地で起こっている誤りを正して本来の道へわたしたちを導いていくだろう。しかし、もし、彼らがその自分たちに与えられた使命を果たさなかったときは、他の人たちが今度は西から来て、その使命を果たさなかった人たちに情け容赦なく罰を与えるだろう。この西から来る者は非常に人数が多いというだけで何者であるか、わたしたちには判らない。そして浄化の日に生き残ることが出来た人たち、つまり太古からの教えと導きに従った人々は誰でもグレイトスピリットに出会うのだ。なぜなら、彼こそが最初に出会い、そして最後に出会うものだからだ。そこにはまったく新しい世界があり、平和にあふれ、すべてのいのちあるものと調和のとれた、鳥や動物たち自然とも尊敬し合う見事に平和な世界、第四番目の世界が始まるだろう」

 ホピは自分たちの生き方、ウエイ・オブ・ライフに従う人々を待ち望み、あらゆる迫害と差別、困難にめげず、今日まで自分たちの生活の仕方を忠実に守ってきたのだ。

 「なぜかって、ホピはこの地球といのちあるものを、すべて正しき人々のために支えてきているからなのだ」

 トーマスはわたしにそう言った。

 御仏舎利塔を礼拝するための道を作ることからヒロシマヘ、そして日達上人の導きにより、トーマス・バンヤッケのホピの予言を伝える仕事を助けるために始まった映画『ホピの予言』の旅は、多くのインディアン、日本人、アメリカ人たちの無償の協力により、やっと一本の映画として完成した。昨年の八月のことである。それはまるで何かの大きな力に導かれるようにして出来上がったのだった。仏さまの、グレイトスピリットの力と信じる他はない。この映画を通じて、わたしはホピの道に気付き、それを存続させることが、わたしたちの子供や孫、未だ生まれざるいのちと、この地球を存続させることにつながることを一人でも多くの人々の心に訴えかけていきたいと思っている。日達上人の御存命中に完成させることが出来なかったことを悔やむが、この映画が上人の遺志をわずかでも継ぐものであるなら、わたしにとってこれにすぐる喜びはない。

南無妙法蓮華経、オールマイ、リレーション
合掌

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